自由でいるための仕事術

先日、久しぶりに読み応えのある本を手に入れました。雑誌などにはありがちな、インタビュー記事をまとめたような本です。タイトルは「自由でいるための仕事術」。

タイトルからするとノウハウ本のようですが、これを読んで即戦力に繋がることは無いでしょう。何故このタイトルにしたのかは分かりません。ですが、この内容に合うタイトルを考えようとしても思いつかないので、タイトルはどうでも良かったのかもしれません。ただ普通は本を買う時、タイトルで選びますから、果たしてこの内容を面白いと思う人が手にできる確率は、とても低いような気がします。

では何故、私がこの本を買ったのでしょうか。

そこからお話させていただければ、この本がどういう本なのか分かってもらえると思います。

この本では12人の人をピックアップして、インタビューしています。その中にたったひとりだけ、知っている人がいるのです。その人は、東京杉並で自転車屋を営んでいます。そのお店との出会いは、ちょっと感動的でした。

振り返れば、今年の3月。子供を乗せられる自転車が欲しいと思った事でした。その前から考えていた事でしたが、娘が1才を過ぎ、色々と出かけるところが増えてきて、そろそろ娘を自転車に乗せても大丈夫かなと思うようになりました。それじゃあとりあえず、今ある自転車に子供乗せシート、チャイルドシートを取り付けようか、という話になりました。

しかし今の自転車は、小柄な妻が乗るには少し大振りなもので、これにチャイルドシートを取り付けて果たして2人乗りできるのか。実際、無理な感じがします。それなら子供乗せ自転車を買おうか、ということになりました。

どうせ買うなら、ずっと使い続けられるものが良い。子供が大きくなって2人乗りできなくなっても、自転車としてずっと使い続けられるのが良い。そんな自転車を探す事にしました。なぜなら、多少高くても永くつきあえる自転車なら、結局投資としては良い投資に違いないと思うからです。この点では、私と妻の意見は一致しています。ですが実用本位の私と、実用面はもちろんデザインにもこだわる妻との間で、色々と食い違いが起きました。

この自転車に関しては、妻が使うのが大前提ですし、育児に疲れを見せている妻に、なかなかしてあげるチャンスがなかったので、ここは全面的に妻の意見を聞こうと思っていました。そんな訳で、自転車の展示やイベントに出かけるのはもちろん、ネットで噂になっている自転車屋に行って話を聞いてもらったりしました。いったい何件の自転車屋を巡ったか、ほんとうに数えきれないほどです。

自転車屋さんで話を聞いてもらおうにも、全く相手にされないこともありましたし、話を聞いてくれたものの、こちらの意向が全く伝わらない、無視されることも沢山ありました。またせっかく話に乗ってもらったものの、うちでは無理と断られた事もありました。実際、私も妻の求める自転車は、この世に存在しないのではないかと思うほどに、妻のこだわりは強いものがありました。もしかすると育児のストレスが、強い欲求となって現れていたのかも知れません。自転車探しに精神的に疲弊しきって、諦めてしまおうかと思った中、最後に残ったのが狸サイクル(リサイクル)でした。

一癖創作自転車家 狸サイクル

サイトで住所を確認して、お店に向いました。サイトにお店の場所は分かりにくいので、お電話いただければと書かれています。実際分かりにくい場所で、住宅地の中、特別目印もない道を入って行った奥に店がありました。が、もしかすると店を見て、帰るかもしれないと思ったので電話もせずに行き、ナビで確認したにもかかわらず道に迷いました。

私が店を見た第一印象は「面白そうな店」でした。何か冒険にも似た香りを感じました。たぶん妻もそう思ったと思います。

その店は、菜園と駐車場に囲まれた一角にあって、他の住宅とは距離をおいて存在していました。それは世間から距離をおくかのごとく、まるで草原の中にぽつんとある遊牧民のテントのようでもありました。店らしい構えは無く、テントで覆われた作業場とストックヤードが、住居を囲むように造られているだけです。そのテントの端には、ボロボロののぼり旗が誇らしげにはためいていました。旗には「リサイクル」とパッチワークされています。

早速、相談をはじめると、妻の話を聞くその目が輝いています。それだけではなく、何やらストックの中からそれらしいフレームやらパーツやらを持ってきて、具体的に話が進んで行きました。私は半分呆然としながらも、妻の考えが目の前で具体的な形を見せて行くのに感動すら覚えていました。その瞬間、私はこのお店に任せてみようと思いました。もちろん妻も・・・

そして出来上がったのが、ブログで紹介した自転車でした。

ただのわがままと言えばそれまでですが、自転車をよく見ると、色々な苦労がそこにはあるのです。一番分かり易いのは、サドルの位置でしょう。小柄な妻が乗るには、20インチでサドルをギリギリまで下げる必要がありました。むろん一人で乗るだけなら、もっと高いところにサドルがあっても問題ないのです。が、子供を乗せて安全に走れるようにするためには、このサドル位置が良いのです。全てがこんな案配なのでした。

職人気質の自転車屋は他にも沢山ありましたが、職人気質にも色々とあって、客の要望に何処まで応えられるかに挑戦してくれるところは、ここぐらいしかなかったのです。そして、物を大切にする心も・・・

この一風変わった店の主のインタビューが載っているということで、この本を買ったのでした。インタビューは、この店主だけではありません。冒頭に書きました通り、ピックアップされた12人の自由人たちインタビューです。それぞれの自由人たる生き様は、なかなか興味深いものがあり、そこのところをインタビューアーが良く聞き出しています。決してノウハウ本などではなく、即戦力にもなりません。が、じっくりと読むと、生涯に亘って仕事する姿勢というものが、どういうものであるかをこの本は語ってくれています。

現実社会で自由であるということが、どういうことなのか知りたければ、この本を読んで損は無いと思います。

自由でいるための仕事術

自由でいるための仕事術